金融機関で口座開設や各種取引を行うときには、本人認証が必要です。一般的には印鑑が使われますが、最近ではサイン登録が採用されている金融機関もあります。
口座開設や取引には印鑑が必須だった
かつて日本の金融機関で口座開設や取引を行うには、印鑑が必須でした。日本は世界でも特に印鑑を重要視する国で、印鑑は1,000年以上前から社会に深く浸透してきました。法律の条文にも「印」という言葉が使われているように、制度としても確立していることがいえます。それほど印鑑文化は深く日本に根づいており、本人を証明するためには欠かせないものでした。
サインに対応している金融機関が登場
印鑑での認証は簡単で便利である一方、紛失したり、盗難にあったり、偽造されたりといったリスクも存在します。また、金融機関以外との契約や取引はサインで成立することも多く、さらに諸外国では金融機関においても既にサインの登録が一般的となっている現状があります。
『世界基準になっているなら、日本の金融機関でも本人認証はサインでできるようにならないのか』と思われるかもしれません。実は日本にも既に、新生銀行やイオン銀行ではサインの登録に対応しています。これらの金融機関では印鑑とサインのどちらでも登録が可能で、基本的には本人が選ぶことになっています。サインを必要とする取引は口座開設のほか、投資信託の購入や各種口座振替の依頼など、銀行によって定められています。
サインの登録にはルールや制約もある
サインの登録は、印鑑が不要なので比較的手軽に行えそうですが、どんなサインでも登録できるわけではなく、以下のようなルールがあります。
(例)新生銀行の場合
・フルネーム(姓と名どちらか一方やイニシャルは不可)
・姓と名の書体は同一
・まねされにくく、毎回確実に記入できるサイン
これらのルールに沿っていれば、サイン自体をアルファベットで書くことも認められています。
また、サイン登録には制約もあります。例えばイオン銀行の場合、満20歳未満の方や、郵送での手続きを行う方はサイン登録ができません。さらに、全ての取引がサインだけで済むわけではなく、場合によっては本人確認書類が必要なこともあります。
サインのリスク
サインは便利ですが、印鑑とは異なったリスクもあります。例えば、サインを忘れてしまうことです。印鑑の場合は、長い間使わなかったとしてもその印鑑自体は変わりませんが、サインの場合は、普段使っていないとどんなサインだったか忘れてしまったり、書き方が変わってしまったりする可能性があります。
電子署名を活用する金融機関
情報化社会が進展する現代では、通常の紙に記入するサインのほか、電子署名も採用されています。三井住友銀行ではインターネットでの契約に電子署名を活用していて、法人の融資取引の際にPDFファイルへの認証は電子署名を行うことができ、紙の契約書記入や印鑑などが不要で手続きを進めることができます。電子署名は暗号技術を用いており、偽造や改ざんへの対策や真正性の確保をしています。
サイン以外にも多様化する金融機関の認証方法
ここまでご紹介してきたように、印鑑の代わりにサインを利用できる金融機関もありますが、これらは店頭があり、店舗で手続きができる機関です。そもそも店頭という概念がないネット銀行では、認証は専用の認証基盤で行われ、印鑑は不要となることも多いです。また、りそな銀行が静脈データを利用した認証の導入を進めていたり、三菱UFJ銀行でスマートフォンアプリを使った口座開設が可能であったりと、印鑑を使わない認証方法の多様化が進んでいます。この流れが今後も続けば、金融機関での印鑑は必要なくなり、サイン認証や新しい認証方法に取って代わられていく時代がくるかもしれません。
株式会社署名ドットコム 総合プロデューサー兼代表
2006年に署名ドットコムを創立し、サインデザインの分野でパイオニアとして活躍しています。著書には『サイン・署名の作り方』があります。