ご自身でサインを考える方もいらっしゃると思います。この場合の注意点とアドバイスの一部を説明させていただきます。
まず「いいサイン」の条件とは
マイサインを作る前にまず「いいサイン」の条件とは何でしょうかを考えてみましょう。我々は、以下の3つの条件が揃ったものだと考えています。
「実用性がある」ことです。
文字が認識しやすく、使いやすいものでなければなりません。
「フォルム(形)やライン(線)が美しいこと」
デザイン的に、いい構図であることが望まれます。
「その人の想いを伝えるもの」であること
そのサインを見た人に、何かを想像させるようなものが理想的です。
そこでご自身でも、以下のことをまずは言語化してみてください。
「あなたはサインを通じて、見る人に何を伝えたいですか?」
「あなたはどんなサインが欲しいですか?」
まずこれらをしっかりと認識しましょう。
このように、サインの目的や用途をあらかじめ決めることはとても大切です。
「やわらかいイメージを出したい」
「シャープさがほしい」
「とにかく書きやすいものがいい」など、
押さえておきたい要素をメモし、その目的に沿って形を考えていきましょう。
文字の書きやすさと読みやすさのバランスを理解する
字を崩せば崩すほど筆数は少なくなり、サインは書きやすくなります。ただし、その反面で認識しやすさは下がります。何という字なのか、パッと見では読みにくくなるということです。さらに筆数を省略しすぎると、文字の原形がなくなり、形の美しさが損なわれることもあります。
しかし逆に、元の文字の形を残そうとしすぎると「サイン」として映えないものや、筆数が多すぎるものになってしまいます。書きやすさと読みやすさのバランスをどこで取るのか、取りたいのか。これは先ほど挙げた「サインの目的」にもよります。実際には、デザインしては試し書きをすることをくり返しながら調整していくことになりますが、これらのことはあらかじめ頭に入れておきましょう。
また、何という名前の人のサインなのか、誰のサインなのかが「見てすぐにわかる」ことが理想だと思っていらっしゃる方も多いと思います。しかし「いいサイン」には、書いた後で「これが私のサインです」と他人に伝えたときに一瞬でわかるよりも、少し考えて見てもらうと「ああ、なるほど」と理解できる程度のわかりやすさのものが多いのです。「パッと見ただけでは誰のものかわからないけれども、教えた人にはわかる」くらいの案配のものが、見栄え的にもちょうどいいサインになります。
たとえば「寺田」なのか「寺岡」なのかは、その人を知らない人にはわからないけれども、知っている人にはわかる―「寺岡」の「岡」は判別しにくいけれども「寺」はすぐわかる、名字と名前で四文字だったら二文字はすぐにわかる。それくらいのものです。
以下のサンプルの方のお名前はわかりますか? 最初の文字が「神」、3文字目は「雅」なのはわかるのではないでしょうか。
神田雅子
この方は神田雅子さんです。言われれば納得でき、そう見えるくらいのバランスになっているのではないでしょうか?
サイン全体の「構図」が与える印象や意味を考える
サイン全体をどんな図形に近づけるのかによって、見たときに受けるイメージは大きく変わります。
たとえば底辺がしっかりした三角形に名前を収めれば、安定したイメージになります。さらに四角形は、三角形以上に落ち着きを演出しやすくなり、丸は可愛い印象になります。
あなたは、サインを通じてどんな自分を表現したいでしょうか? それを形で表すと、丸みを帯びていますか? 尖っていますか? 安定していますか? 勢いが大事ですか?
以下のサンプル、坂内和士さんのサインは三角形に収めたものです。右上に伸びていく線と縦に伸ばす大きい丸が、勢いを演出しています。
坂内和士
次のサンプルはヨコ長の長方形です。ガッシリした印象を受けるのではないでしょうか。
1つのかたまり(図形)としてサインを捉えたときに、その形にどんな意味を持たせたいのか、見る人にどう感じてほしいのかを考えましょう。
古木勝之
空間の密度をコントロールする
サインをつくるときには、それぞれの文字で空間の密度を一定に保ったほうが美しく見えます。左の文字はスカスカで右の文字はギッチリしている、ということにならないようにしましょう。
たとえば田中豪さんのように一文字だけ画数が多い漢字がある方でも、うまく「豪」の線を整理・省略して、密度がそれぞれの文字で同じくらいの空白度合いになることを目指してみてください。
櫻井光和
このサンプルは櫻井光和さんですが、櫻の字だけ画数が多いところをうまく省略して全体の密度を揃えています。
文字の意味と特徴を活かす
文字には、それぞれの意味があります。それを無視してはいけません。
たとえば「昇」という名前の人が「昇」の文字を平らに潰してしまうと、文字イメージと異なってしまいます。やはり文字の意味に従い、上に突き抜ける、縦線を活かすラインにしたほうがしっくりくるのです。
あるいは「龍」であれば、「龍」という生きものが持つ雰囲気が必要になります。そこを無理に可愛くしようとすると、おかしくなってしまうのです。
斉藤龍
斉藤龍さんのサインです。三つの文字を大幅に簡略化して「龍」だけを強調しました。そして「龍」は基本となる筆画を残して縦方向に長く伸ばし、末尾の横線を飛び出させることで、興が尽きず奔放でおおらかなイメージを与えています。
「点」「直線」「曲線」の形が帯びてしまう意味を知っておく
文字は「点」と「線」でできています。そして線には「直線」と「曲線」しかありません。つまり、あらゆるサインは、この組み合わせでできています。
直線を使うとシャープさ、曲線を使うとやわらかさが出ます。点は、配置の仕方や力の入れ方によってさまざまなアクセント、ニュアンスを加えることができます。
藤井拓也
神田綾子
サンプルは藤井拓也さんと神田綾子さんのものですが、前者は直線を、後者は曲線を活かしています。線をどう描くかで、雰囲気がまったく違ってきます。
あなたの名前のどこをどれくらい直線的に描くか、どんな曲線を描くか、どんな点を打つかによって、見る人に与える印象が変わります。
「点」「直線」「曲線」の3つの組み合わせでバランスを取って、目的とするイメージに近づけていきましょう。
株式会社署名ドットコム 総合プロデューサー兼代表
2006年に署名ドットコムを創立し、サインデザインの分野でパイオニアとして活躍しています。著書には『サイン・署名の作り方』があります。